【シャンハイサマー】クリアレビュー・評価|ノスタルジックの雰囲気と主人公が自身の記憶と向き合っていく物語の魅力。今後名作と語られていくであろう作品。

レビュー
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はじめに

皆さんには「あの時こうしていれば…」という後悔はあるでしょうか。

人生において一つ一つの決断が無数の可能性となって未来につながっている。そういった決断の重さとつながる未来について考えさせられる作品が本作『シャンハイサマー』です。

シャンハイサマー』は2024年2月8日にSteam、Nintendo Switch/ps5/ps4にて配信開始されたアドベンチャーゲームで、中国のインディゲーム会社、FUTU Studioによって開発されたゲーム作品です。

正直、あまり話題にはなっていませんが、そのクオリティは本物です。

筆者自身、雰囲気にひかれ、なんとなく購入したのですが、心から買って良かったと思える作品でした。間違いなく、じわじわと評判が広がっていくタイプの作品だと感じていて、数年後には隠れた名作として語り継がれていることでしょう。

物語は主人公の屠 百川(と びゃくせん)が夢の世界の中で、自分の過去と向き合い、物語の真相とその先の結末を描く作品になっています。

テーマは「救いと赦し

スタルジックな雰囲気を感じる2D表現と人間味が強く、どこまでも印象に残る登場人物、過去と現在を行き来しながら描かれる物語と、どこまでもリアルで物々しい心理描写のすごさなど、本作の語りたい魅力はたくさんあります。プレイ時間はクリアまで5時間程度と、比較的コンパクトなものになっていますが、クリアした後はその余韻に浸れること間違いなしです。

今回はそんな本作の魅力について語っていきたいと思います。

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ゲーム概要

ストーリー・あらすじ

主人公である屠 百川(と びゃくせん)は大学卒業後、本屋でバイトをしながら生活をしています。そんな中で出会ったしゃべる猫から告げられたのは「この世界は夢の中で、現実ではない」ということでした。現実に戻るためには自分の過去と向き合い、忘れてしまった記憶を取り戻し、提示される最後の質問に答える必要があるようです。

手がかりを集めようとしていく中で気づくのが、どうしても思い出せない名前があることです。友人との会話の中で彼女の名前が出てきても、「■■■…」のように黒く塗りつぶされて、名前すら思い出すことができません。大切な思い出だったはずなのになぜ思い出せないのか、プレイヤーはこの夢の世界で12日間を過ごし、彼女のことや一連の真実、そして最後の質問への手掛かりを集めていくことになります。

ゲームの進め方

移動し、話しかけることで交流イベントが始まる

基本的なゲーム進行はイベントシーンを見ながら手がかりを集めていくことになります。とはいえ、プレイヤーが操作できるのは一部のパートと最後の質問などの選択肢のみになっています。集めた手掛かりはいつでもメニューから見ることができるようになっていて、それが物語を進めるヒントにもなるでしょう。

丁寧で見やすいフローチャート

選択肢を間違えてしまうとバッドエンドに行くこともありますが、フローチャートですぐ手前からやり直すことができます。このフローチャートの造りも丁寧で、なにがあったのかすぐに振り返れるようになっています。親切なシステムになっていますし、そうそう難しくて積むということはないと思いますよ。

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『シャンハイサマー』の魅力

その1:ノスタルジックの雰囲気を感じさせる2D表現

まずはここから触れておきましょう。

本作は2D形式のアドベンチャーゲームではありますが、常時立ち絵で展開していくわけではなく、ヴァニラウェアの「13騎兵防衛権」のような2Dの背景の中を動くキャラたちが描かれます。操作パートもあるのですが、基本的には簡易的な移動のみでストレスを感じることはありません。

この表現によってより情緒が感じられるうえ、ノスタルジックな雰囲気が強くなっていて、作品の強い色になっていると思いますし、こういったフィールドを動いているだけでも世界に入り込める感覚があって良いと思います。

その2:過去と現在が交差する物語に目が離せない

本作はビジュアルノベルように物語を進めていくという体験が主になってくるのですが、シナリオはもちろん、その描き方がすごいと感じました。

物語を進めていると突然過去の断片的な記憶を思い出したり、別の選択をした世界にいって、全く別の人生を歩む登場人物の姿をのぞいたり、別の人から見た視点になったり、唐突に違う展開が挟まることがあります。この違う展開が強いアクセントになっていて、過去に何があったのか、この世界はどうなっているのか、その真実に近づきたいとプレイヤーをどんどん引き込んでいくのです。

何より過去の記憶を思い出し、そして向き合いながら今を懸命に生きる人々と過ごす12日間の体験は、どこかきれいで儚く、それでいて元気をもらえるような、不思議な感覚を与えてくれます。

その3:あまりにもリアルで儚い登場人物の描き方

本作の登場人物の描き方はあまりにもリアルで、現代を生きる人々にも刺さる部分があると思います。

本作には様々な登場人物が出てきますが、その誰もが不安や悩みを抱えています。例えば親友の若奉一は音楽の夢を追い続けるバンドマンですが、生活はぎりぎりで、夢を追い続ける決断が正しいのか悩んでいたりします。

時折挟まる学生時代の思い出を通して描かれるのは「なんでもできる気がしていた学生時代」と「現実に打ちのめされそうな今」、の対比。「自分の決断は正しかったのだろうか」と悩みながらも前に進もうとする人々の姿はあまりにもリアルで社会人になった我々の心に響きます。

時折挟まる別視点のお話

夢の世界では「ほんの少しの選択の違いで、あり得たかもしれない世界」が描かれることがあります。そこでは周りの人々の様子が違っていて、自分も全く違う生き方をしていることもあります。若奉一が夢を諦めてしまっていたり、これまでの世界で深いかかわりを持っていた人が赤の他人になっていたり、数多くの選択によって人生が決まっていることを強く感じられる世界の描き方は見事としか言いようがありません。

また時折選択肢によって本来とは違うエンディングを見ることができるのですが、1つの決断がその未来につながった感覚があって、従来のゲームとは違う重さを感じれますし、とうとうつに挟まるバッドエンドを回収してみても面白いかもしれません。

ちなみにバッドエンドは分かりやすく「みんな死にました」のようなものではなく、「その決断を後悔しながらその後の人生を生きていきました」のようなものになり、結構むなしいので注意してくださいね。

そういった点も踏まえ、多くの人と関りながら描かれる人の悩みや葛藤、そして前を向いていく物語は、様々な感情を与えてくれ、語り切れない深さがこもっています。プレイし終えたときに、どこか暖かさがあり、少し前向きな気持ちになれるような、そんなところが筆者の好きなところです。

その4:親切なシステムと丁寧な翻訳

整理され、いつでも確認できる情報

本作は中国のインディゲーム作品であるため、翻訳やUIなどの操作面で不自由を感じるのではないか、という心配を考える人もいるかもしれません。

結論からいうと、その心配はありません。

翻訳は完璧で、違和感を感じることなくゲームに集中できます。システム面についても細目なオートセーブとどこからでも再開できるフローチャート、早送り機能、使いやすいギャラリーなど、少なくとも大きな不満を感じることはないでしょう。

それに加えて前述した2D表現など、日本のゲームを研究されている部分もあり、日本人でも違和感なくプレイできることはもちろん、むしろ日本人だからこそささる、そんな作品になっていました。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は『シャンハイサマー』の評価・レビューをお届けしました。

クリアまで5時間程度のコンパクトな内容にはなっているものの、何より密度が高く、深い体験ができる作品になっていました。過去と後悔、今と未来に対する不安、様々な感情を丁寧に描きつつ、前向きに生きていく人々を描く物語は、現代に生きる我々にこそ刺さり、プレイした後は感動とその余韻に浸れることでしょう。

加えてお値段1980円。かなりコスパの良い作品でもありますので、ぜひご購入を検討ください。

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